暗号資産の確定申告のやり方は?年間取引報告書はいつもらえる?

暗号資産(仮想通貨)取引に関する日本の所得税確定申告について、とくに取引所が発行する年間取引報告書の理解と活用方法、そして確定申告の具体的な手順や注意点を中心に、包括的な情報を提供することを目的としています。暗号資産の税務は複雑であり、正確な申告のためには正しい知識が不可欠です。
目次を表示
暗号資産の確定申告と年間取引報告書の見方₿

- 暗号資産取引と確定申告の基本
- 年間取引報告書とは何か:役割と記載情報
- 年間取引報告書の限界と注意点
- 主要取引所別・年間取引報告書の入手方法と見方
- 暗号資産の所得計算方法
- 経費計上と節税のポイント
暗号資産取引と確定申告の基本₿

暗号資産取引によって利益が生じた場合、原則として所得税の確定申告が必要となります。ここでは、確定申告が必要となる具体的なケース、所得の区分、申告時期といった基本事項について解説します。
A. 確定申告が必要となるケース₿
所得基準(給与所得者、被扶養者など)
暗号資産取引による所得について確定申告が必要となるか否かは、納税者の状況や所得額によって異なります。
給与所得者の場合、年末調整を受けている方であっても、暗号資産取引を含む給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が年間20万円を超える場合には、原則として確定申告が必要です。この「20万円」という基準は、しばしば誤解を生む点です。暗号資産の利益単独で20万円以下であっても、たとえば副業による他の雑所得があり、それらと合算して20万円を超える場合や、医療費控除や初年度の住宅ローン控除など、他の理由で確定申告を行う場合には、暗号資産の所得が20万円以下であっても申告に含める必要があります。したがって、自身の全体の所得状況を把握することが肝要です。
また、年間の給与収入が2,000万円を超える方は、暗号資産の利益額にかかわらず確定申告が義務付けられています。
学生や主婦(主夫)などで扶養されている方については、暗号資産取引による利益が年間43万円を超えると課税対象となり、申告が必要になる場合があります。
これらの基準は、納税者が自身に確定申告義務があるかを判断するための最初のステップとなります。正確な理解が、申告漏れや過剰な申告を防ぐために重要です。
所得区分(原則として雑所得)
暗号資産取引によって得られた利益は、原則として所得税法上「雑所得」に分類されます。これは、株式の譲渡益やFX(外国為替証拠金取引)の利益が多くの場合「申告分離課税」の対象となるのとは異なり、「総合課税」の対象となります。総合課税とは、給与所得や事業所得など、他の所得と合算した総所得金額に対して所得税率が適用される課税方式です。
雑所得として総合課税されることの主な影響は、以下の2点です。
- 累進課税率の適用:他の所得と合算されるため、総所得金額が大きくなるほど高い税率が適用される可能性があります。
- 損益通算・繰越控除の制限:原則として、雑所得内で生じた損失を他の所得区分(例:給与所得)と相殺すること(損益通算)や、翌年以降に損失を繰り越して将来の利益と相殺すること(繰越控除)はできません。これは、暗号資産投資家にとって不利な点となる場合があります。
ただし、国税庁の「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」によれば、暗号資産取引に係る年間の収入金額が300万円を超え、かつ、その取引に係る帳簿書類の保存がある場合には、その所得は原則として「事業所得」に区分されることになりました。収入金額が300万円を超えていても帳簿書類の保存がない場合は、「雑所得(業務に係る雑所得)」として扱われます。事業所得として認められれば、青色申告による特別控除の適用や損失の繰越控除など、税務上のメリットが大きくなる可能性があります。この変更は、暗号資産取引が一部の納税者にとって単なる副業ではなく、本格的な事業活動としての性格を帯びてきている実態を国税庁が認識し始めたことを示唆しており、適切な記録管理の重要性を一層高めています。
以下に、雑所得(暗号資産取引を含む)が総合課税の対象となった場合の所得税の速算表を掲載します。この税率に加えて、住民税(原則10%)および復興特別所得税(所得税額の2.1%)が課されます。
表1: 所得税の税率(令和6年分以降)
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課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円 まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円 まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円 まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円 まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円 まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円 まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
(出典:No.2260 所得税の税率|国税庁)
B. 課税対象となる取引₿
暗号資産取引においては、日本円に換金した時点だけでなく、さまざまな取引が課税対象となり得ます。これらの取引時点で利益が確定し、所得計算が必要となることを理解しておく必要があります。
主な課税対象取引は以下の通りです。
- 暗号資産を売却して法定通貨(日本円など)を得た場合:売却価格から取得価額(および売却手数料)を差し引いた差額が所得となります。
- 暗号資産で他の暗号資産を購入(交換)した場合:保有する暗号資産を対価として他の暗号資産を取得した場合、保有していた暗号資産をその時点の時価で売却したものとみなされ、所得が計算されます。交換によって日本円を介していなくても利益が確定するため、注意が必要です。この「みなし売却」は、多くの納税者が見落としがちなポイントであり、税務調査で指摘される可能性のある典型的な事例です。
- 暗号資産で商品やサービスを購入した場合:暗号資産を決済手段として用いた場合も、その暗号資産をその時点の時価で売却したものとみなされ、所得が計算されます。商品の購入価格が、使用した暗号資産の売却価額に相当します。
- マイニングによって暗号資産を取得した場合:マイニングによって得た暗号資産は、取得時点の時価で評価され、事業所得または雑所得として所得計上されます。マイニングにかかった電気代や設備投資などは必要経費として控除可能です。
- ステーキングやレンディングによって報酬として暗号資産を取得した場合:ステーキング報酬やレンディングにより得た暗号資産は、取得時点の時価で評価され、雑所得として所得計上されます。
これらの取引は、利益が確定するタイミングを正確に把握し、適切な時価評価を行うことが重要です。とくに暗号資産同士の交換は、日本円への換金が伴わないため課税を意識しにくいですが、明確な課税対象取引です。
C. 確定申告の時期と納税期限₿
所得税の確定申告は、原則として毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、翌年の2月16日から3月15日までの間に行う必要があります。所得税の納付期限も、原則として同じく3月15日です。これらの期限を過ぎると、ペナルティが課される可能性があるため、余裕を持った準備が求められます。
年間取引報告書とは何か:役割と記載情報₿

暗号資産の確定申告を行う上で、国内の暗号資産交換業者が発行する「年間取引報告書」は重要な書類の1つです。この報告書は、確定申告時の所得計算を補助する目的で提供されています。
A. 年間取引報告書の役割と重要性₿
年間取引報告書(「年間損益計算書」や「取引残高報告書」など、取引所によって名称が異なる場合があります)は、特定の暦年(1月1日から12月31日まで)における利用者の取引概要をまとめたものです。この報告書には、年間の売買金額や数量、期末時点の保有数量などが記載されており、国税庁が提供する「暗号資産の計算書(総平均法用)」に転記することで、比較的簡易に所得計算を行うことができます。
とくに、単一の国内取引所のみを利用し、後述する「総平均法」で所得計算を行う個人投資家にとっては、データ収集の手間を大幅に軽減できる便利なツールとなります。証券取引における「特定口座年間取引報告書」と同様に、金融機関が顧客の税務申告をサポートする一環として提供されるものと理解できます。
B. 記載されている主な情報₿
年間取引報告書に記載される具体的な項目は、発行する取引所によって異なりますが、一般的には以下のような情報が含まれます。
- 銘柄ごとの情報:
- 年始時点の保有数量(年始数量)
- 年間の購入数量および購入総額(年中購入数量、年中購入金額)
- 年間の売却数量および売却総額(年中売却数量、年中売却金額)
- 他のウォレット等からの移入数量(移入数量)
- 他のウォレット等への移出数量(移出数量)
- 年末時点の保有数量(年末数量)
- 手数料に関する情報:
- 年間に支払った取引手数料や送金手数料の合計額(支払手数料)
- その他の情報(取引所による):
- ステーキング報酬やレンディングによる収益
- 証拠金取引の損益
- キャンペーン等で付与された暗号資産の評価額
これらの情報を確認することで、納税者は自身の年間の取引活動を概観し、所得計算の基礎データを把握できます。ただし、取引所ごとにレイアウトや項目の粒度が異なるため、複数の取引所を利用している場合は注意が必要です。
年間取引報告書の限界と注意点₿

年間取引報告書は確定申告の際に有用な資料ですが、その利用にはいくつかの限界と注意点があります。これらを理解せずに報告書の情報のみに依存すると、誤った申告につながる可能性があります。
- 形式の不統一と提供状況:国内の暗号資産交換業者間でも、年間取引報告書の名称、レイアウト、記載項目などの細部は統一されていません。また、一部の取引所では、Coincheckのように、年間取引報告書という形式ではなく、CSV形式の取引履歴のみを提供している場合もあります(当記事執筆時点の情報)。
- 計算方法の制約:年間取引報告書に記載された集計値は、主に「総平均法」による所得計算を前提としています。後述する「移動平均法」を選択している場合、年間取引報告書の集計値だけでは正確な所得計算ができず、個々の取引履歴に基づいた詳細な計算が必要となります。
- 複数取引所の利用:複数の暗号資産交換所を利用している場合、各取引所から発行された年間取引報告書の情報を合算し、銘柄ごとに集計し直す必要があります。単純に各報告書の数値を合算するだけでは不正確になる場合があり、煩雑な作業を伴います。
- 海外取引所の非対応:海外の暗号資産交換所は、日本の税法に準拠した年間取引報告書を発行していないのが一般的です。海外取引所での取引がある場合は、自身で取引履歴を収集・管理し、損益計算を行う必要があります。
- 暗号資産同士の交換や暗号資産建て手数料の扱い:年間取引報告書には、暗号資産同士の交換取引や、暗号資産で支払った手数料が、取引時点の正確な日本円評価額で反映されていない場合があります。これらの取引については、別途、取引時点の時価を調べて日本円に換算し、所得計算に反映させる作業が必要になることがあります。
- 取引所以外での取得・取引:マイニング、エアドロップ、DeFi取引、NFT取引など、暗号資産交換所を介さない形で暗号資産を取得したり取引したりした場合、これらの情報は当然ながら交換所の年間取引報告書には含まれません。
これらの限界点を踏まえると、とくに取引が複雑な方や複数のプラットフォームを利用している方は、年間取引報告書をあくまで参考資料の1つと位置づけ、自身で詳細な取引記録を管理し、必要に応じて専門の計算ツールを利用するか、税理士に相談することが賢明です。年間取引報告書に過度に依存することは、申告漏れや計算誤りのリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。
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主要取引所別・年間取引報告書の入手方法と見方₿

国内の主要な暗号資産交換所が提供する年間取引報告書(またはそれに類する取引履歴)は、その入手方法や記載内容が異なります。以下に、代表的な取引所について、その特徴を解説します。
A. bitFlyer₿
- 入手方法:bitFlyerのウェブサイトまたはアプリにログイン後、「お取引レポート」のセクションからダウンロード可能です。PDF形式で提供されます。
- 記載内容:主に「現物取引」「日本円で交付した新暗号資産」「証拠金取引」「支払手数料」の区分で構成されています。現物取引では、銘柄ごとの年始・年末数量、年間の購入・売却数量と金額(日本円)などが記載されます。
- 利用時のポイント:記載されている購入・売却金額や証拠金取引の損益、支払手数料などを、国税庁の「暗号資産の計算書(総平均法用)」に転記して利用します。比較的オーソドックスな内容で、総平均法を用いる場合には活用しやすいでしょう。
B. Coincheck (取引履歴CSVの提供)₿
- 入手方法:Coincheckでは、本稿執筆時点において、集計された「年間取引報告書」という形式での提供はなく、CSV形式の取引履歴がダウンロードできます。PCブラウザでログイン後、「取引履歴」から取得します。
- 記載内容:CSVファイルには、取引日時、取引種別(購入、売却、送金など)、通貨ペア、数量、価格、手数料などの詳細な取引データが1行ごとに記録されています。
- 利用時のポイント:年間の集計値は提供されないため、このCSVデータをもとに利用者自身が損益計算を行う必要があります。国税庁の「暗号資産の計算書」を利用する場合は、「3 上記2以外の取引に関する事項」の欄に、計算結果を記入することになります。
C. GMOコイン (GMO Coin)₿
- 入手方法:GMOコインの会員ページにログイン後、「明細」メニュー内の「帳票」からダウンロードできます。PDF形式で提供されます。
- 記載内容:ステーキングや貸暗号資産(レンディング)などのサービスを反映した項目が多いのが特徴です。「現物取引」(年始・年末残高など)、「収入金額」(購入・売却金額、キャンペーン報酬、ステーキング・貸借料収入など)、「各種手数料」、「証拠金取引」といった区分で情報が提供されます。
- 利用時のポイント:現物取引の購入・売却金額は「暗号資産の計算書」に転記できます。キャンペーンやステーキング等で得た暗号資産の評価額については、計算の正確性を期すため、「暗号資産の計算書」の「3 上記2以外の取引に関する事項」の欄に記入することを検討するとよいでしょう。
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D. bitbank₿
- 入手方法:bitbankのウェブサイトにログイン後、資産画面の下部にある「年間取引報告書」の項目からCSV形式でダウンロードできます。
- 記載内容:JPY(日本円)建て取引とBTC(ビットコイン)建て取引が分けて集計されている点が特徴的です。各通貨の年始数量、JPY建て・BTC建てそれぞれの年中購入・売却数量と金額、移入・移出数量、支払手数料、貸暗号資産の損益などが記載されます。
- 利用時のポイント:JPY建て取引の情報は「暗号資産の計算書」に比較的容易に転記できます。しかし、BTC建て取引(実質的には暗号資産同士の交換)については注意が必要です。報告書に記載されている「BTC建て購入金額」「BTC建て売却金額」は、取引日のビットコイン終値に基づいて換算された参考値であり、取引時点の正確な時価とは異なる可能性があるため、自身で取引時点の時価を調べて日本円に換算し直す必要がある場合があります。
E. その他国内取引所の一般的な傾向₿
多くの国内暗号資産交換所では、何らかの形で年間の取引概要を示す書類(年間取引報告書、取引残高報告書、損益計算書など)や、詳細な取引履歴データ(CSV形式など)を提供しています。ただし、前述の通り、その形式、名称、記載内容の網羅性には大きなばらつきがあります。
書類の交付方法は、郵送ではなく、ウェブサイトやアプリからの電子交付(PDFやCSVファイルのダウンロード)が一般的です。
複数の取引所を利用している場合、各取引所から提供される情報の形式が異なるため、データを集約し、統一的な基準で損益計算を行う作業は非常に煩雑になりがちです。この標準化の欠如は、とくに多くの取引所を使い分けるアクティブなトレーダーにとって、確定申告準備の大きな負担となっています。
表2: 主要国内取引所の年間取引報告書 入手方法・記載項目比較
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取引所 | 報告書形式 | 主な入手経路 | 主な記載項目 | 注意点 |
bitFlyer | PDF (年間取引報告書) | Web/App: お取引レポート | 現物・証拠金取引の年間の購入・売却額、手数料等 | 総平均法に適している |
Coincheck | CSV (取引履歴) | Web: 取引履歴 | 個別の全取引詳細 | 年間集計なし、自身で損益計算が必要 |
GMOコイン | PDF (年間取引報告書) | Web: 明細 > 帳票 | 現物・証拠金取引、ステーキング等収入、手数料 | ステーキング等収入の扱いに注意 |
bitbank | CSV (年間取引報告書) | Web: 資産画面 | JPY建て・BTC建て取引別集計、手数料、貸暗号資産 | BTC建て取引の円換算に注意 |
この表は、各取引所の特徴を簡潔にまとめたものであり、実際の申告準備にあたっては、各取引所の最新情報を確認することが重要です。
暗号資産の所得計算方法₿

暗号資産取引による所得を正確に計算することは、確定申告の中核をなす作業です。ここでは、計算の基本原則と、国税庁が認める主な計算方法について解説します。
A. 計算の基本原則₿
暗号資産取引による所得は、基本的に以下の計算式で算出されます。
所得金額=売却価額−(取得価額+売却に要した経費)
ここで、
- 売却価額:暗号資産を売却した際の日本円換算額、または暗号資産で商品・サービスを購入した際のその商品・サービスの日本円評価額、他の暗号資産と交換した際の交換対象暗号資産の日本円評価額を指します。
- 取得価額:売却した暗号資産を取得した際の日本円換算額です。購入代金に加えて、取得時に直接要した手数料(購入手数料など)も含まれます。
- 売却に要した経費:売却時に支払った手数料などが該当します。
この基本的な考え方は、どの計算方法を選択するにしても共通です。
B. 所得計算方法の選択:総平均法と移動平均法₿
暗号資産の取得価額を評価する方法として、国税庁は主に「総平均法」と「移動平均法」の2つを認めています。どちらの方法を選択するかによって、算出される所得金額が異なる場合があり、一度選択した評価方法は、原則として継続して適用する必要があります。
各方法の概要と特徴
総平均法 (Total Average Method):
1年間の購入総額(期首に保有していた暗号資産の評価額を含む)を、同期間の購入総数量(期首保有数量を含む)で除して、その暗号資産の1単位あたりの平均取得価額を算出します。そして、その年に売却した暗号資産の取得価額は、すべてこの平均取得価額を用いて計算します。
- メリット:計算が比較的単純で、とくに取引所発行の年間取引報告書と合わせて利用しやすいです。
- デメリット:年末まで所得が確定しないため、期中の利益管理が難しい場合があります。また、個々の取引の実際の損益とは乖離が生じる可能性があります。
移動平均法 (Moving Average Method):
暗号資産を取得する都度、その時点での保有総額と保有総数量から、1単位あたりの平均取得価額を再計算します。売却時には、その直前の平均取得価額を用いて取得価額を計算します。
- メリット:個々の取引ごとの損益をより正確に把握でき、期中の利益管理がしやすいです。
- デメリット:計算が非常に煩雑で、とくに取引回数が多い場合や多数の銘柄を取引している場合には、手作業での計算は現実的ではありません。
国税庁の推奨と届出
国税庁は、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」において、原則的な評価方法として「移動平均法」を挙げていますが、継続して適用することを条件に「総平均法」によることも認めています。
暗号資産の評価方法を選定した場合(または変更しようとする場合)は、所定の期限までに「所得税の暗号資産の評価方法の届出書(変更承認申請書)」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。届出がない場合は、原則として総平均法が適用されることになります。
選択した評価方法は、翌年以降も継続して適用しなければならず、毎年のように有利な方へ変更することは認められていません。このため、最初の選択が長期的に影響を及ぼす可能性があります。たとえば、取引開始当初は簡便な総平均法を選択したものの、後に取引スタイルが変わり移動平均法の方が有利になったとしても、変更には手続きが必要であり、必ずしも認められるとは限りません。したがって、自身の取引頻度や今後の見通しなどを考慮して慎重に選択することが望まれます。
表3: 総平均法と移動平均法の比較
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特徴 | 総平均法 | 移動平均法 |
計算の複雑さ | 比較的容易 | 複雑 |
損益把握のタイミング | 年末に一括計算 | 取引の都度計算 |
実態との近さ | 個別取引の損益と乖離の可能性 | 個別取引の損益に近い |
NTAの推奨 | 届出なしの場合の原則、継続適用で可 | 原則的な方法 |
年間取引報告書との相性 | 高い(集計値を利用しやすい) | 低い(個別の取引履歴が必要) |
C. 国税庁提供「暗号資産の計算書」の活用₿
国税庁は、暗号資産の所得計算を支援するために、Excel形式の「暗号資産の計算書」を提供しています。総平均法用と移動平均法用の2種類があり、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
暗号資産等に関する税務上の取扱いおよび計算書について(令和6年12月)|国税庁
暗号資産の計算書(移動平均法用):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/xlsx/001.xlsx
暗号資産の計算書(総平均法用):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/xlsx/002.xlsx
これらの計算書は、取引所から入手した年間取引報告書の情報や、個別の取引履歴を入力することで、年間の所得金額を算出できるように設計されています。とくに総平均法用の計算書は、年間取引報告書の項目と対応している部分が多く、転記によって比較的容易に所得を計算できます。ただし、この計算書自体を確定申告書に添付する必要はありませんが、計算結果を申告書に転記します。
D. 具体的な計算例₿
例1: 単純な売却(総平均法)
- 1月10日に1BTCを300万円で購入(手数料なし)。
- 6月15日に1BTCを400万円で購入(手数料なし)。
- この年のBTCの平均取得価額 = (300万円 + 400万円) ÷ (1BTC + 1BTC) = 350万円/BTC
- 11月20日に1BTCを500万円で売却(手数料なし)。
- 売却による所得 = 売却価額500万円 - 平均取得価額350万円 = 150万円
(計算原則は 1 に基づく)
例2: 暗号資産同士の交換
- 過去に1BTCを300万円で取得。
- ある時点で、1BTCを20ETHと交換。交換時の時価は、1BTC = 500万円、1ETH = 25万円であった。
- この交換は、まず1BTCを500万円で売却し、その500万円で20ETH(500万円相当)を購入したとみなされる。
- BTCの売却に関する所得 = 売却価額(交換時のBTCの時価)500万円 - BTCの取得価額300万円 = 200万円
- 新たに取得した20ETHの取得価額は、500万円(1ETHあたり25万円)となる。
(計算原則は 1 に基づく)
これらの例は基本的なものですが、実際の取引はさらに複雑になることがあります。正確な計算のためには、取引ごとの日時、数量、価格(日本円評価額)を記録しておくことが不可欠です。
経費計上と節税のポイント₿

暗号資産取引による所得を計算する際には、関連する費用を必要経費として計上することで、課税所得を圧縮できます。ただし、何が経費として認められるか、またその計上方法には注意が必要です。
A. 経費として認められるもの₿
暗号資産取引に関連して必要経費として認められる可能性のある主なものは以下の通りです。
- 暗号資産の取得価額(売却原価):売却した暗号資産を取得するために要した費用。これは所得計算の基本となります。
- 取引手数料・送金手数料:暗号資産の売買時に取引所に支払った手数料や、暗号資産を送金する際に支払った手数料などです。ただし、購入時に支払った手数料は、その暗号資産の取得価額に含めて計算します。
- 情報収集・学習費用:暗号資産取引に関する知識やスキル向上のために購入した書籍代、有料セミナーの参加費、専門情報サービスの購読料など。ただし、取引に直接関連すると合理的に説明できるものに限られます。
- 通信費・インターネット接続料:暗号資産取引に使用したインターネット回線料やスマートフォンの通信費。私用と共用している場合は、後述する家事按分が必要です。
- PC・スマートフォン等の購入費用:暗号資産取引専用に使用しているPCやスマートフォン、タブレットなどの購入費用。10万円以上のものは原則として減価償却資産となり、耐用年数に応じて分割して経費計上します。私用と共用している場合は家事按分が必要です。
- 損益計算ツール・ソフトウェア代:暗号資産の損益計算を目的として利用した有料の計算ツールや会計ソフトの費用。
- 税理士費用:暗号資産の税務申告に関して税理士に相談したり、申告業務を依頼したりした場合の費用。
- その他(事業所得の場合):暗号資産取引が事業所得として認められる場合は、上記に加えて、事務所家賃や水道光熱費(事業使用分)、従業員給与など、より広範な経費が認められる可能性があります。国税庁のFAQでは、暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超え、帳簿書類の保存がある場合に事業所得として区分される可能性が示されていますが、この「帳簿書類の保存」が極めて重要な要件となります。これは単に取引所のCSVをダウンロードするだけでなく、会計原則に則った記録管理を意味し、事業としての実態を示す上で不可欠です。
経費計上にあたっては、その支出が暗号資産取引に直接関連し、かつ業務遂行上必要であったことを客観的に証明できる必要があります。領収書や請求書などの証拠書類は必ず保管してください。
B. 家事按分の考え方₿
自宅で暗号資産取引を行っている場合など、1つの支出が私的な生活費と事業経費(暗号資産取引に係る経費)の両方にかかわるものを「家事関連費」といいます。家事関連費については、その全額を経費とすることはできず、取引に実際に使用したと合理的に区分できる部分のみを必要経費として計上します。これを「家事按分」といいます。
たとえば、以下のような費用が家事按分の対象となり得ます。
- 自宅の家賃:取引に使用している部屋の面積割合などで按分します。
- 水道光熱費:取引に使用した時間や電力消費量などで按分します。ただし、客観的な按分基準の設定が難しい場合もあります。
- 通信費(インターネット、スマートフォン):取引に使用した時間やデータ通信量などで按分します。
按分割合の算定根拠は、税務調査などで説明を求められる可能性があるため、客観的かつ合理的な基準で設定し、その計算過程を記録しておくことが重要です。
C. 記録・領収書の保管₿
暗号資産の所得計算や経費計上を正確に行い、税務調査等に備えるためには、関連するあらゆる記録や証拠書類を整理し、長期間保管することが不可欠です。
- 取引履歴:国内外のすべての取引所、ウォレットに関する全取引履歴(売買、交換、入出金、送受金、手数料など)。取引所が過去の履歴をいつまで提供するかは不確実なため、定期的にダウンロードして自身で保管することが推奨されます。
- 年間取引報告書等:取引所から発行される年間取引報告書や損益計算書。
- 経費に関する領収書・請求書:書籍代、セミナー参加費、PC購入費、通信費、税理士費用など、経費として計上するすべての支出に関する証拠書類。
- 時価の記録:とくに暗号資産同士の交換やマイニング・ステーキング報酬の取得時など、日本円を介さない取引については、その時点での時価(日本円評価額)を記録しておく必要があります。
- 計算の根拠資料:損益計算や家事按分の計算過程を示した資料。
これらの記録は、所得税法上、原則として7年間(事業所得者で青色申告の場合は帳簿書類により異なる)の保存義務があります。適切な記録管理は、正確な申告の基礎であり、万が一の税務調査の際にも自身を守るための重要な手段となります。
暗号資産の確定申告と年間取引報告書のやり方₿

- 年間取引報告書はいつ、どこでもらえる?
- 確定申告書への記入方法
- 特別なケースの税務処理(海外取引所、NFT、DeFiなど)
- 申告漏れ・計算ミスとそのペナルティ
- 損失の繰越不可と住民税申告の注意点
- 正確な申告のためのチェックリスト
- 暗号資産の確定申告のやり方と年間取引報告書を総括
年間取引報告書はいつ、どこでもらえる?₿

年間取引報告書は、通常、確定申告期間(原則として翌年2月16日から3月15日まで)に間に合うように、各暗号資産交換業者が対象年の翌年1月中旬から2月上旬頃にかけて発行・提供を開始することが一般的です。
入手方法は取引所によって異なり、多くの場合、ウェブサイトやアプリにログイン後、指定のメニュー(例:「お取引レポート」「明細」「帳票」など)から電子ファイル(PDFやCSV形式)でダウンロードする形となります。郵送での提供は少ない傾向にあります。
たとえば、bitFlyerではウェブサイトまたはアプリの「お取引レポート」からPDF形式でダウンロード可能です。GMOコインでは会員ページの「明細」メニュー内「帳票」からPDF形式で入手できます。bitbankでは資産画面下部の「年間取引報告書」からCSV形式でダウンロードできます。Coincheckのように、年間取引報告書という形式ではなく、取引履歴のCSVファイルのみを提供している取引所もあります。
具体的な入手手順や提供時期については、利用している各暗号資産交換所のヘルプページや告知、お知らせなどを確認することがもっとも確実です。
確定申告書への記入方法₿

暗号資産の所得計算が完了したら、その結果を確定申告書に記入し、税務署に提出します。ここでは、主に国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用したオンライン申告と、手書きによる申告の場合の記入方法について説明します。
A. 必要な書類₿
確定申告を行う際には、事前に以下の書類等を準備しておくとスムーズです。
- 年間取引報告書等:各暗号資産交換業者から発行された年間取引報告書、またはそれに代わる取引履歴(CSVファイルなど)。
- 暗号資産の計算書:自身で作成した「暗号資産の計算書」(総平均法用または移動平均法用)。この計算書に基づいて申告書に数値を転記します。
- 給与所得の源泉徴収票:給与所得がある場合、勤務先から交付される源泉徴収票が必要です。
- 各種控除証明書:生命保険料控除、医療費控除、社会保険料控除など、各種所得控除を受ける場合に必要となる証明書類。
- 必要経費の領収書・記録:暗号資産取引に関連して計上する経費の根拠となる領収書や記録。
- マイナンバーカード(または通知カードと本人確認書類):申告者のマイナンバーを確認できる書類。
- 振込先の口座情報:還付申告の場合、還付金を受け取るための金融機関の口座情報。
これらの書類を整理し、計算結果をまとめておくことで、申告書の作成が効率的に進められます。
B. 確定申告書等作成コーナー(国税庁)での入力手順₿
国税庁のウェブサイトで提供されている「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の案内にしたがって入力するだけで確定申告書を作成でき、e-Taxによる電子申告も可能です。暗号資産の所得を入力する際の一般的な手順は以下の通りです。
- 「確定申告書等作成コーナー」へアクセスし、申告書作成を開始します。
- 収入金額・所得金額の入力画面に進みます。
- 「雑所得」のセクションを探し、「業務・その他」あるいは単に「その他」といった項目を選択して入力に進みます。
- 一部の会計ソフト連携や画面構成によっては、「その他の収入がある方」といった選択肢から進む場合もあります。
- 雑所得(その他)の入力画面が表示されたら、「所得の種目」または「種目」の欄で「暗号資産」を選択します。
- この「暗号資産」という種目が設けられたことで、以前よりも入力が分かりやすくなっています。
- 「収入金額」と「必要経費」の欄に、事前に「暗号資産の計算書」で算出した年間の合計額をそれぞれ入力します。
- 「所得の生ずる場所」または「支払者の氏名・名称」の欄には、取引を行った暗号資産交換業者の名称と所在地を記入します。
- 複数の取引所を利用している場合は、代表的な取引所名を記入し、「〇〇ほか」と追記するなどの対応が一般的です。
- 源泉徴収税額の欄は、暗号資産取引に関しては通常ありませんので、空欄または0とします。
- 入力内容を確認し、他の所得(給与所得など)や各種控除の入力に進みます。
国税庁のシステムは年々改善されており、暗号資産に関する入力項目も整備されてきています。しかし、DeFiやNFTといった複雑な取引から生じる多様な所得をすべてこのシンプルな入力欄で表現しきれない場合もあります。そのような場合は、事前にすべての取引を網羅して計算した「収入金額」と「必要経費」の総額を正確に入力することが重要です。不明な点があれば、税務署や税理士に相談することを推奨します。
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C. 手書きの場合の記入箇所₿
確定申告書を手書きで作成する場合は、以下の箇所に注意して記入します。
- 確定申告書B 第一表:
- 「収入金額等」の「雑⑤」欄の「その他」の区分に、暗号資産取引による収入金額を記入します。
- 「所得金額」の「雑⑦」欄の「その他」の区分に、暗号資産取引による所得金額(収入金額から必要経費を差し引いた額)を記入します。
- 国税庁の記載例 6 によれば、「雑」「その他(ケ)」の「区分」欄に、暗号資産の所得のみの場合は「2」、個人年金保険の収入と暗号資産の両方がある場合は「3」を記入するとされていますが、最新の様式を確認してください。
- 確定申告書B 第二表(所得の内訳書):
- 「所得の種類」の欄に「雑所得」と記入します。
- 「種目・所得の生ずる場所又は給与などの支払者の氏名・名称」の欄に、「暗号資産」と明記し、続けて取引を行った暗号資産交換業者の名称と所在地を記入します。
- 「収入金額」と「必要経費等」の欄に、それぞれ計算した金額を記入します。
手書きの場合は計算ミスや転記ミスが起こりやすいため、慎重な作業が求められます。
特別なケースの税務処理(海外取引所、NFT、DeFiなど)₿

暗号資産取引は多様化しており、海外取引所の利用、NFTやDeFiといった新しい分野の取引も増えています。これらの特殊なケースにおける税務処理には、とくに注意が必要です。
A. 海外取引所を利用した場合の注意点₿
日本の居住者は、国内外を問わず、全世界で得た所得に対して日本の所得税が課税されます(全世界所得課税)。したがって、海外の暗号資産交換所で得た利益も、日本の税法にしたがって確定申告し、納税する義務があります。
海外取引所を利用する際の主な注意点は以下の通りです。
- 年間取引報告書の非提供:多くの海外取引所は、日本の税務当局が求める形式の年間取引報告書を提供していません。そのため、納税者自身が取引履歴をすべて収集・管理し、損益計算を行う必要があります。
- 取引履歴の管理の重要性:すべての取引記録(売買、送受金、手数料など)を正確に、かつ網羅的に保存しておくことが極めて重要です。これらの記録が損益計算の唯一の根拠となります。
- 外貨建て取引の円換算:海外取引所での取引は、米ドル(USD)やテザー(USDT)などの外貨建てで行われることが一般的です。これらの取引から生じる損益は、取引発生時点の為替レートを用いて日本円に換算して計算する必要があります。使用する為替レートは、取引を行った海外取引所が公表しているレートがあればそれを使用し、なければ合理的な方法で(たとえば、主要銀行のTTMなど)一貫して適用することが求められます。
- 計算の複雑性:多様な取引種類、多数の通貨ペア、頻繁な取引、そして通貨換算が絡むため、手作業での損益計算は非常に困難です。専門の暗号資産損益計算ツール(例:Gtax、Divlyなど)の利用が推奨されます。これらのツールは、多くの海外取引所の取引履歴フォーマットに対応し、自動で円換算や損益計算を行ってくれる場合があります。
「海外の取引所だから税務署に把握されないだろう」という考えは誤りであり、危険です。国際的な税務情報の交換は進んでおり、申告漏れが発覚した場合には重いペナルティが課される可能性があります。
B. NFT(非代替性トークン)取引の税務₿
NFTの取引から生じる所得も課税対象となりますが、その所得区分は取引の態様によって異なります。
- 購入したNFTの売却:
- NFTが値上がり益を目的とする譲渡所得の基因となる資産に該当する場合(例:アート作品など)は、「譲渡所得」となる可能性があります。ただし、営利を目的として反復的に行われる場合は「雑所得」または「事業所得」となります。
- 上記以外の場合は、一般的に「雑所得」と考えられます。
- 自身が作成したNFTの販売(クリエイターとして):
- 「事業所得」または「雑所得」に該当すると考えられます。副業として行い、年間の収入金額が300万円以下(かつ帳簿保存がない)の場合は「雑所得」となる可能性が高いです。
- 役務提供の対価としてNFTを受領:
- 「給与所得」「事業所得」「雑所得」のいずれかに該当します。
- 偶発的な取得(エアドロップ、ゲーム内報酬など価値のあるもの):
- 「一時所得」に該当する可能性があります。一時所得には年間50万円の特別控除があります。
- NFT購入時の暗号資産の売却益:
- NFTを暗号資産で購入した場合、その支払いに用いた暗号資産の売却益(または損失)が別途認識され、課税対象となります(通常は雑所得)。
NFTの税務はまだ発展途上であり、個別の事例ごとに判断が必要となる場合が多いため、不明な点は税務署や税理士に確認することが推奨されます。
C. DeFi(分散型金融)取引の税務₿
DeFi(分散型金融)における取引も、利益が生じれば課税対象となります。DeFi取引は取引所を介さず、スマートコントラクトを通じて行われるため、取引記録の把握と時価評価がとくに重要になります。
- トークンのスワップ(交換):DEX(分散型取引所)などで1つの暗号資産を別の暗号資産に交換した場合、保有していた暗号資産を時価で売却し、新たな暗号資産を時価で購入したものとして扱われ、売却益(または損失)が認識されます。これは中央集権型取引所(CEX)での暗号資産同士の交換と同様の扱いです。
- 流動性提供(Liquidity Providing)による報酬:流動性プールに暗号資産を預け入れ、その対価としてLPトークンや手数料分配、ガバナンストークンなどを受け取った場合、これらの報酬は取得時点の時価で所得として認識されるのが一般的です(通常は雑所得)。
- イールドファーミングやレンディングによる報酬:これらも同様に、報酬として暗号資産を受け取った時点で、その時価相当額が所得となります。
DeFi取引は、取引履歴がブロックチェーン上に分散して記録され、中央管理者がいないため、納税者自身がすべての取引を追跡し、各取引時点での時価を特定して日本円に換算し、損益を計算する必要があります。この作業は極めて煩雑であり、専用の計算ツールやブロックチェーンエクスプローラーの活用が不可欠となるでしょう。国税庁の標準的な計算書では、DeFi特有の複雑な取引を直接入力することは難しく、事前の集計作業が重要となります。
D. ステーキング・レンディング・マイニング報酬の扱い₿
これらの活動によって暗号資産を取得した場合の税務処理は以下の通りです。
- マイニング報酬:マイニングによって暗号資産を取得した場合、その取得時点の時価が収入金額となります。所得区分は、事業として行っている場合は「事業所得」、それ以外の場合は「雑所得」となります。マイニングに必要な電気代や機材の減価償却費などは必要経費として計上できます。
- ステーキング報酬・レンディング報酬:暗号資産を預け入れることで得られるステーキング報酬やレンディングの利息は、原則として報酬を受け取った時点(または権利が確定した時点)の時価で評価され、「雑所得」として所得計上されます。
- 報酬の二段階課税:ステーキングやレンディングで得た報酬については、注意すべき点があります。まず、報酬受取時にその時点の時価で所得として課税されます。その後、その報酬として得た暗号資産を売却または他の暗号資産と交換した際には、売却(交換)価格とその報酬受取時の時価(つまり取得価額)との差額が、改めて譲渡損益として課税対象となります。この二段階での課税を理解しておく必要があります。
これらの報酬は、取得時の時価評価と、その後の売却時の取得価額の管理が重要となります。
申告漏れ・計算ミスとそのペナルティ₿

暗号資産取引による所得の申告漏れや計算ミスは、税務調査で指摘された場合、本来納めるべき税金に加えて、ペナルティとしての税金(加算税や延滞税)が課される可能性があります。
主なペナルティは以下の通りです。
- 無申告加算税:期限内に確定申告をしなかった場合に課されます。税務署の調査を受ける前に自主的に期限後申告をした場合は軽減されることがあります。
- 過少申告加算税:申告した所得額が実際よりも少なかった場合に課されます。
- 重加算税:意図的に所得を隠蔽したり、仮装したりするなど、悪質と判断された場合に課されるもっとも重いペナルティです。税率も高くなります。
- 延滞税:納付期限までに税金を納めなかった場合に、納期限の翌日から納付日までの日数に応じて利息に相当する税金が課されます。
これらのペナルティは、故意であるか否かにかかわらず発生する可能性があるため、慎重な申告作業が求められます。とくに、暗号資産同士の交換や海外取引所での利益、DeFiやNFT関連の所得など、見落としやすい取引については注意が必要です。
表4: 確定申告における主なペナルティ
| | |
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ペナルティの種類 | 内容 | 主な税率・金額 |
無申告加算税 | 期限内に申告しなかった場合に課される税金 | 原則、納付すべき税額に対し50万円までは15%、50万円を超える部分は20%。自主的な期限後申告で5%に軽減される場合あり。 |
過少申告加算税 | 申告した税額が実際より少なかった場合に課される税金 | 新たに納める税金の10%相当額。一定額(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額)を超えると15%。 |
重加算税 | 意図的な隠蔽や仮装があった場合に課されるもっとも重い加算税 | 無申告の場合:納付すべき税額の40%。過少申告の場合:追加本税の35%。 |
延滞税 | 納期限までに税金を納付しなかった場合に課される利息に相当する税金 | 納期限の翌日から納付日までの日数に応じて計算(税率は変動)。 |
損失の繰越不可と住民税申告の注意点₿

損失の繰越不可について₿
暗号資産取引で損失が生じた場合、その取り扱いには注意が必要です。前述の通り、暗号資産取引による所得は原則として「雑所得」に区分されます。雑所得内で生じた損失は、他の所得区分(例:給与所得、事業所得)の利益と相殺(損益通算)することはできません。また、その年の損失を翌年以降に繰り越して、将来の雑所得の利益から控除する(損失の繰越控除)ことも原則として認められていません。
これは、株式投資などで特定口座(源泉徴収あり)を利用した場合や、事業所得で青色申告をしている場合などと比較して、暗号資産投資家にとっては不利な点と言えます。たとえば、ある年に暗号資産取引で大きな利益が出て多額の税金を納めたとしても、翌年に大きな損失を出した場合、その損失を過去の利益や将来の利益と相殺して税金の還付を受けたり、将来の税負担を軽減したりすることができないのです。この税制上の非対称性は、とくに価格変動の激しい暗号資産市場において、投資家が負うリスクを増大させる要因の1つとなっています。
ただし、年間の暗号資産取引全体で損失が出た場合でも、同一年内の他の雑所得(たとえば、副業の原稿料など、暗号資産取引以外の雑所得)の利益とは相殺が可能です。また、暗号資産取引が「事業所得」として認められる場合は、損益通算や損失の繰越控除のルールが異なり、より有利な取り扱いが期待できますが、そのためには前述の通り厳格な要件を満たす必要があります。
会社に副業を知られたくない場合の住民税の申告方法₿
給与所得者が副業(暗号資産取引を含む)で所得を得た場合、その所得に応じて住民税額が増加します。会社員の場合、住民税は通常、毎月の給与から天引きされる「特別徴収」という方法で納付されています。住民税額が前年より大幅に増加した場合、会社の経理担当者がその変化に気づき、副業の存在を推測される可能性があります。
会社に副業(暗号資産取引による所得)を知られたくないと考える場合、確定申告の際に住民税の徴収方法について工夫する余地があります。確定申告書の第二表「住民税・事業税に関する事項」の欄で、給与・公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法として「自分で納付」(普通徴収)を選択できます。
「自分で納付」を選択すると、給与所得に係る住民税は従来通り給与から天引き(特別徴収)されますが、暗号資産取引などの副業で得た所得に係る住民税は、別途、市区町村から自宅に納付書が送られてきて、自分で金融機関などで納付することになります。これにより、会社に通知される住民税額は給与所得分のみとなるため、副業による所得増を知られるリスクを低減できる可能性があります。ただし、この取り扱いは市区町村によって運用が異なる場合があるため、完全に秘匿できる保証はありません。
正確な申告のためのチェックリスト₿

暗号資産の確定申告を正確に行うために、以下の項目を最終確認することをオススメします。
- 課税対象取引の網羅:年間のすべての売買、交換、暗号資産による商品購入、マイニング・ステーキング・レンディング報酬などを漏れなく把握したか。
- 取引履歴の収集:利用したすべての取引所(国内・海外)、ウォレットからの取引履歴をすべて収集したか。
- 計算方法の一貫性:選択した所得計算方法(総平均法または移動平均法)を一貫して適用したか。
- 円換算の正確性:海外取引所での取引や外貨建ての取引について、取引時点の適切な為替レートで日本円に換算したか。
- 必要経費の計上と証拠:計上可能な必要経費をすべて洗い出し、その根拠となる領収書や記録を保管しているか。家事按分は合理的な基準で行ったか。
- 申告書への正確な転記:「暗号資産の計算書」で算出した所得金額等を、確定申告書の「雑所得(その他)」の欄に正しく転記したか。
- 特殊取引の考慮:NFT、DeFiなどの特殊な取引がある場合、その税務上の取り扱いを適切に検討したか。
- 申告期限の確認:確定申告および納税の期限(原則3月15日)を再確認したか。
これらの点を丁寧に確認することで、申告ミスを防ぎ、安心して確定申告を終えることができます。
暗号資産の確定申告のやり方と年間取引報告書を総括₿

暗号資産取引に係る確定申告は、その取引の多様性、価格変動の大きさ、そして税法上の取り扱いの複雑さから、多くの納税者にとって難解なものとなっています。当記事では、確定申告の基本から、年間取引報告書の役割と限界、具体的な所得計算方法、さらには海外取引やNFT・DeFiといった新しい分野の税務上の注意点に至るまで、網羅的に解説を行いました。
重要なポイントは以下の通りです。
- 申告義務の正確な把握:給与所得者で年間20万円超の利益(所得)が出た場合など、一定の条件を満たすと確定申告が必要です。ただし、この基準は絶対ではなく、他の所得状況や控除の適用によって申告が必要となるケースもあるため、個別の状況判断が不可欠です。
- 所得区分と計算方法の理解:暗号資産の利益は原則「雑所得」として総合課税の対象となり、累進税率が適用されます。損失の繰越控除は原則できません。所得計算は「総平均法」または「移動平均法」のいずれかを選択し、継続適用する必要があります。
- 年間取引報告書の適切な活用:国内取引所が発行する年間取引報告書は、総平均法による所得計算の際に有用ですが、その記載内容や形式は取引所ごとに異なり、万能ではありません。複数取引所の利用、移動平均法の採用、海外取引、DeFi・NFT取引などがある場合は、報告書の情報だけでは不十分であり、自身での詳細な取引記録の管理と計算が求められます。
- 課税対象取引の認識:日本円への換金だけでなく、暗号資産同士の交換、暗号資産による商品購入、マイニングやステーキング等による報酬の取得も課税対象となることを理解しておく必要があります。
- 海外取引・新分野への対応:海外取引所での利益も申告対象であり、円換算や取引履歴の管理が重要です。NFTやDeFiといった新しい分野の税務は複雑であり、個別の取引内容に応じた慎重な判断と、場合によっては専門家への相談が必要です。
- 経費計上と記録保存の徹底:取引に直接関連する費用は経費として計上できます。家事按分は合理的な基準で行い、すべての取引記録や経費の証拠書類は長期間保存することが、正確な申告と税務調査への備えとなります。
- 申告漏れ・誤りのリスク回避:申告漏れや計算ミスには加算税や延滞税といったペナルティが伴います。正確な知識に基づき、慎重に申告作業を行うことが肝要です。
暗号資産の税務環境は依然として変化しており、今後も新たな指針や法改正が行われる可能性があります。納税者自身が最新情報を収集し、理解を深める努力を続けるとともに、判断に迷う場合は税務署や税理士などの専門家に相談することを強く推奨します。適切な税務処理を行うことは、暗号資産市場の健全な発展にも寄与するものです。
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